明治の知識人はこっくりさんをどう見たか
明治期の日本で、こっくりさんは真面目な調査の対象になりました。
「迷信だから相手にしない」でも「本物だ」でもなく、 まず何が起きているのかを観察するという姿勢が取られています。
「迷信を解体する」という営み
明治期の日本には、迷信を科学的に検討しようとする動きがありました。
背景:
・西洋の科学が導入された時期
・在来の民間信仰を、どう位置づけるかが問題になった
・「否定する」だけでなく「説明する」ことが試みられた
こっくりさんは、その代表的な題材の一つになっています。
中心にいた人物
井上円了(いのうえ えんりょう)です。
・明治の哲学者
・東洋大学の創立者
・こっくりさんを調べ、1887年(明治20年)に『妖怪玄談』を出した
・「妖怪博士」と呼ばれた
円了は、こっくりさんを否定しに行ったのではありません。
「人が妖怪として恐れているものは、その大半が心の問題だ」 という見通しを立てて、確かめに行ったという順序です。
そして2つの語で説明しました。
予期意向(よきいこう)
… 答えを、先に心の中で予想してしまう
不覚筋動(ふかくきんどう)
… その予想どおりに、自覚なく筋肉が動く
この2語が、いまこっくりさんの説明として使われているものになっています。
そして円了は、これを思いつきで言ったのではありません。
・大学時代のノート『稿録(こうろく)』に、
カーペンター『精神生理学の原理』の記録を残している
・カーペンターは、1852年に ideo-motor action を提唱した人物になる
つまり「不覚筋動」は、英語圏の ideomotor を踏まえた語になっています (→ テーブルターニング)。
どう調べられたか
観察と実験という形が取られました。
① まず現象を観察する
→ 動くことは認める。動かないとは言わない
② 条件を変えて実験する
→ 参加者の構成を変える
→ 目隠しをする
→ 参加者が知らないことを聞く
③ 何が変わり、何が変わらないかを見る
②の3つ目が決定的です。
参加者が答えを知らない質問をすると、答えが出ません。 これは不覚筋動の説明から直接導かれる予測です (→ 研究はあるか)。
この姿勢の何が良いか
現代から見ても、扱い方として正しい形をしています。
✕ 「迷信だ」と切り捨てる
→ 体験した人の実感を否定することになる
→ 「分かっていない人だ」と受け取られて、説明が届かない
✕ 「本物だ」と認める
→ 説明を放棄することになる
◎ 「起きていることは認める。そのうえで説明する」
→ 体験を否定せず、仕組みを示す
このサイトが取っている立場も、これと同じです (→ 嘘なのか)。
説明は受け継がれなかった
ただし、この検証の成果は広く定着しませんでした。
明治期 … 説明が出ていた
戦後 … 「危険な遊び」という認識だけが広がった
説明ではなく禁止のほうが残りました(→ いつ流行ったのか)。
理由は構造的に説明できます。
説明は覚えにくく、禁止は覚えやすい
→ 口伝えで広がる遊びでは、簡潔なほうが残る
現代に残っている痕跡
この時期の調査は、いまも参照できる形で残っています。
・大学・研究機関の資料
・民俗学・日本近代史の文献
・こっくりさんを扱ったページが、いまも検索上位に出てくる
実際、この語を検索すると大学のページが上位に来ます。 明治期の調査が、100年以上たっても参照され続けているのです。
何を学べるか
遊びの話を超えて、扱い方の型として使えます。
① 現象を否定しない
起きていることは起きている。そこから始める
② 説明を探す
「不思議だ」で止めない
③ 説明がついても、断定しすぎない
「説明がつく」と「存在しない」は別(→ 嘘なのか)
③まで含めて、明治期の姿勢に近いと思います。 彼らも「霊は存在しない」と証明したわけではなく、 「この現象は説明できる」と示しただけです。
もっと知りたくなったら
明治期の思想や民俗学に関心が向いたなら、 このサイトより先に、元の文献にあたるほうが早いです。
・「民俗学」「日本近代史」の入門書
・大学が公開している解説ページ
まとめ
- 明治期の日本で、こっくりさんは真面目な調査の対象になりました
- 中心にいたのは井上円了(東洋大学の創立者)。『妖怪玄談』1887年
- 説明は2つ。予期意向と不覚筋動
- 円了はカーペンターの ideo-motor を踏まえていました。思いつきではありません
- 姿勢は否定でも肯定でもなく、観察と実験
- 参加者が知らないことを聞く実験は、不覚筋動の予測と一致します
- **「起きていることは認める。そのうえで説明する」**という形が正しいです
- ただし説明は受け継がれず、禁止のほうが残りました
- 学べるのは3つ。否定しない/説明を探す/断定しすぎない
出典
井上円了『妖怪玄談』1887年(明治20年)
著作権保護期間は満了している。青空文庫で全文が読める
https://www.aozora.gr.jp/cards/001021/files/49375_40185.html
東洋大学「明治時代にこっくりさんの謎を科学で解明!
東洋大学創立者・井上円了氏の妖怪研究」
https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/culture/youkai-hakase-enryou/
東洋大学史ブックレット6
https://www.toyo.ac.jp/dp/enryo/booklet06/pageindices/index20.html
→ 『稿録』とカーペンター『精神生理学の原理』についての記述
確認日:2026-08-26
円了の著作は著作権保護期間が満了しています。 このサイトでも短く引きましたが、要約を中心にしています。
原文は青空文庫で読めます。 このサイトの説明で足りなければ、そちらが確実です。