なぜ「狐」なのか──狐・狗・狸の3文字
こっくりさんは外から入ってきた遊びとされています。
それなのに、呼び出す相手は狐になっています。 文字盤には鳥居を書きます。
なぜ日本に来た時点で狐と結びついたのでしょうか。
下地が2つあった
① 狐憑き … 狐が人に憑くという考え方。全国に広く伝わっていた
② 稲荷信仰 … 稲荷神の使いが狐とされる。神社の数が非常に多い
「人ならざるものが人に働きかける」という枠組みが、既に日本にありました。
外来の遊びを説明するとき、新しい枠組みを作る必要はありませんでした。 既にあるものに当てはめれば、すぐ理解できたのです。
狐憑きという枠組み
「憑く」という考え方が、こっくりさんと構造的に噛み合います。
狐憑き … 人に憑いて、その人を通して語る
こっくりさん … 参加者の手を通して、答えが文字盤に現れる
どちらも「人を媒介にして何かが現れる」という形をしています。
だから狐という説明が、違和感なく当てはまったのです。
ここは民俗学の記述としてそう説明できる、という話です。 狐憑きが実在するかどうかは、このサイトでは扱いません。
稲荷信仰と鳥居
文字盤に鳥居を書く形が広く伝わっています。
・硬貨の始まりと終わりの位置が鳥居
・「お帰りください」で鳥居に戻す
鳥居は「境界」を示す記号として機能しています。
鳥居の内側 … 神域
鳥居の外側 … 日常
→ 硬貨が鳥居に戻る = 相手が帰った、という了解になる
この「帰った/帰っていない」という感覚が、 終わらせ方にまつわる不安の核心になっています。
狗と狸はどこから来たか
実際の呼び出しでは、狗と狸はあまり出てきません。
・「狐が来る」という言い方が広く伝わっている
・稲荷の使いとして説明される
・鳥居を書く(稲荷の要素)
にもかかわらず「狐狗狸」と3文字書くのは、 音に漢字を当てるときの都合が大きいと考えられます(→ 漢字の由来)。
ただし狗(犬神)も狸も、日本では「憑くもの・化かすもの」として語られてきました。
狗 … 犬神。西日本に伝わる憑きもの(→ 別記事)
狸 … 化かすものの代表。狐と対で語られる
当てる漢字として、この3つは自然な選択だったとは言えます。
外来のものが在来の枠組みに接続される
これは民俗学でよく見られる形です。
外から来たもの
↓
既にある枠組みで説明される
↓
元が外来だったことが忘れられる
こっくりさんも同じ経路をたどっています。
テーブルターニング(外来)
↓
狐・稲荷という枠組みで説明される
↓
「日本古来の怪談」として受け取られるようになる
仕組みは輸入品、まとっている文脈は日本のもの。 この二重構造が、こっくりさんを理解しにくくしている面があります。
現代の扱い
「狐が来る」という説明を、現在どれだけの人が信じているかは別の話です。
・遊びの手順として狐を呼ぶ形は残っている
・ただし信仰として受け取られているとは限らない
このサイトは、信仰の有無を判定しません。
「そう伝わってきた」という記述にとどめます(articles.md の方針⑥)。
まとめ
- 下地が2つあった。狐憑きと稲荷信仰
- 「人ならざるものが人に働きかける」枠組みが既に日本にありました
- 狐憑きは「人を媒介にして何かが現れる」形で、こっくりさんと構造が噛み合います
- 鳥居は境界の記号です。硬貨が戻る=相手が帰った、という了解になります
- 実際は狐が中心。狗と狸は当て字の都合が大きい
- 外来のものが在来の枠組みに接続され、外来だったことが忘れられるという典型例です